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第4回 製薬業
研究開発費に関する論点

Q1-3およびA1-3において、支払側の会計処理、すなわち契約に基づく外部の開発結果に対して対価を支払う場合には、無形資産として計上することを説明しました。しかしながら、一方で、製薬業界では、自社にて製造・販売する製品を多額の研究開発費を投入して研究開発するケースもよく見られることから、内部の研究開発費そのものが多額に上ることが多く、かつ、その研究成果(すなわち、規制当局の認可)が必ずしも取得できるとは限らないため、研究開発費の資産計上については、十分な検討が必要です。

Q2-1:
当社は、特定の研究開発に対して、規制当局の認可を確実に得られるかどうかが不明である場合、どの時点で開発費の資産計上を開始すべきでしょうか?

(設例)
当社は、特定の疾患に対して過去他社でも製造・販売されていないワクチンを研究、開発しており、臨床試験のフェーズ1とフェーズ2を成功裡に完了しています。現在、臨床試験のフェーズ3の段階ですが、経営陣は、規制当局の認可を確実に得られるかどうか依然として懸念しており、ワクチンの製造やマーケティング活動を開始していません。当社はこの時点で開発費の資産計上を開始すべきでしょうか?

A2-1:
多くの状況において、最終的な効能認可を受けた時点で資産計上開始の基準を満たします。しかしながら、(常にではありませんが)申請を規制当局に提出した時点で資産計上の開始の基準を満たす可能性もあります。

(解説)
IAS38号(改訂)57項では、以下の要件がすべて満たされている場合に、開発費は無形資産として資産計上されます。

  • (a)使用または売却できるように無形資産を完成させることの、技術上の実行可能性。
  • (b)無形資産を完成させ、さらにそれを使用または売却するという企業の意図。
  • (c)無形資産を使用または売却できる能力。
  • (d)無形資産が蓋然性の高い将来の経済的便益を創出する方法。とりわけ、企業は、無形資産による産出物または無形資産それ自体の市場の存在、あるいは、無形資産を内部で使用する予定である場合には、無形資産が企業の事業に役立つことを立証しなければならない。
  • (e)無形資産の開発を完成させ、さらにそれを使用または売却するために必要となる、適切な技術上、財務上およびその他の資源の利用可能性。
  • (f)開発期間中の無形資産に起因する支出を、信頼性をもって測定できる能力。

資産計上のタイミングについては、上記のすべての要件をいつ満たすかを検討した上で、各プロジェクトの事実と状況に照らして経営者が自ら判断しなければならないと考えます。その意味では、今回の設例の場合、規制当局の認可が得られるかどうかが不明であり、当該時点において、内部開発費の資産計上を開始すべきタイミングを特定するのは困難であると考えられます。

製薬業の場合、規制当局に最終認可を申請した時点や、当該認可を受けた時点は、資産計上の開始のタイミングを検討する上で、ひとつのベンチマークにできると考えられます。通常、前述(a)に記載されている、新薬を完成させることの技術上の実現可能性が証明された時点を資産計上の開始時点とするのが最も明確であると考えられますが、同時にこれは最も立証が難しい要件でもあります。そのため、多くの状況において、最終的な効能認可を受けた時点を資産計上の開始時点とし、その後に発生した開発支出がある場合、当該支出について資産計上することになると考えます。しかしながら、(常にではありませんが)申請を規制当局に提出した時点で資産計上の開始の基準を満たす可能性もあります。

では、上記設例のうち、以下の要件が加わった場合、開発費の資産計上のタイミングはどのようになるでしょうか?

Q2-2:
Q2-1の場合で、当該薬剤が、当社が過去に開発に成功した薬剤と近似しており、かつ、経営陣が、当該ワクチンが患者に対してかなり強いニーズを満たすもので、社会的要請もあり規制当局が期待通りに対応することを確信しており、さらに、在庫品の製造も開始した時点ではいかがでしょうか?

A2-2:
当該時点で、無形資産の資産計上を開始できると考えられます。

(解説)
Q2-1の場合と同様に、新薬を完成させることの技術上の実現可能性が証明された時点の判断がかなり困難でありますが、上記時点で技術上の実現可能性があると判断された場合(他の要件を満たしているという前提においては)、この時点を資産計上の開始時点とし、その後に発生した支出について、資産計上することになると考えます。

さらに、研究開発対象がジェネリック薬の場合はどのような点に留意しなければならないでしょうか?

Q2-3:
ジェネリック薬の開発にかかる、資産計上時期はどの時点と考えられるでしょうか?

(設例)
当社は、別の会社が市場で長年販売している薬剤のジェネリック版を開発中です。認可済製品のジェネリック版であるため、技術上の実現可能性は既に確立されており、現時点において、その化学的同等性および生理学的同等性も証明されています。当社の顧問弁護士は、著しい困難が生じて規制当局から販売認可を得るプロセスに遅れが出るようなことはないと考えています。(この設例では、IAS38号(改訂)57項に規定されているその他すべての条件が満たされていると仮定しています。)

A2-3:
この設例では、規制当局から販売認可を得られる可能性が高く、IAS38号(改訂)57項のその他の要件を満たしていると仮定すると、経営陣は内部開発費の資産計上を開始すべきです。

(解説)
資産計上を開始すべきタイミングについては、前述のとおり、明確な基準はなく、十分な留意が必要ですが、経営陣が自ら、各開発プロジェクトの事実と状況により判断すべきであると考えます。当設例の場合にもA2-1の場合と同様、IAS38号(改訂)57項の(a)の要件について、技術上の実現可能性が確立された時点において、(他の要件を満たされていると仮定しているため)資産計上の開始が可能になると考えられます。

他の業界と同様に、研究開発費の資産計上のタイミングについては、十分な検討が必要である一方で、製薬業の場合、『規制当局の認可』や『規制当局への認可申請』というような、ある種外観的にも技術上の実現可能性の確立について明確なベンチマークが存在する業界でもあります。特に『規制当局の認可』というタイミングは、無形資産計上のタイミングを検討するうえでの重要なベンチマークとなります。経営者は、このようなベンチマークを利用しつつ、前述の資産計上の要件に留意した上で、開発費の無形資産計上開始のタイミングを適切に判断する必要があると考えます。

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