Q1-3およびA1-3において、支払側の会計処理、すなわち契約に基づく外部の開発結果に対して対価を支払う場合には、無形資産として計上することを説明しました。しかしながら、一方で、製薬業界では、自社にて製造・販売する製品を多額の研究開発費を投入して研究開発するケースもよく見られることから、内部の研究開発費そのものが多額に上ることが多く、かつ、その研究成果(すなわち、規制当局の認可)が必ずしも取得できるとは限らないため、研究開発費の資産計上については、十分な検討が必要です。
(設例)
当社は、特定の疾患に対して過去他社でも製造・販売されていないワクチンを研究、開発しており、臨床試験のフェーズ1とフェーズ2を成功裡に完了しています。現在、臨床試験のフェーズ3の段階ですが、経営陣は、規制当局の認可を確実に得られるかどうか依然として懸念しており、ワクチンの製造やマーケティング活動を開始していません。当社はこの時点で開発費の資産計上を開始すべきでしょうか?
(解説)
IAS38号(改訂)57項では、以下の要件がすべて満たされている場合に、開発費は無形資産として資産計上されます。
資産計上のタイミングについては、上記のすべての要件をいつ満たすかを検討した上で、各プロジェクトの事実と状況に照らして経営者が自ら判断しなければならないと考えます。その意味では、今回の設例の場合、規制当局の認可が得られるかどうかが不明であり、当該時点において、内部開発費の資産計上を開始すべきタイミングを特定するのは困難であると考えられます。
製薬業の場合、規制当局に最終認可を申請した時点や、当該認可を受けた時点は、資産計上の開始のタイミングを検討する上で、ひとつのベンチマークにできると考えられます。通常、前述(a)に記載されている、新薬を完成させることの技術上の実現可能性が証明された時点を資産計上の開始時点とするのが最も明確であると考えられますが、同時にこれは最も立証が難しい要件でもあります。そのため、多くの状況において、最終的な効能認可を受けた時点を資産計上の開始時点とし、その後に発生した開発支出がある場合、当該支出について資産計上することになると考えます。しかしながら、(常にではありませんが)申請を規制当局に提出した時点で資産計上の開始の基準を満たす可能性もあります。
では、上記設例のうち、以下の要件が加わった場合、開発費の資産計上のタイミングはどのようになるでしょうか?
(解説)
Q2-1の場合と同様に、新薬を完成させることの技術上の実現可能性が証明された時点の判断がかなり困難でありますが、上記時点で技術上の実現可能性があると判断された場合(他の要件を満たしているという前提においては)、この時点を資産計上の開始時点とし、その後に発生した支出について、資産計上することになると考えます。
さらに、研究開発対象がジェネリック薬の場合はどのような点に留意しなければならないでしょうか?
(設例)
当社は、別の会社が市場で長年販売している薬剤のジェネリック版を開発中です。認可済製品のジェネリック版であるため、技術上の実現可能性は既に確立されており、現時点において、その化学的同等性および生理学的同等性も証明されています。当社の顧問弁護士は、著しい困難が生じて規制当局から販売認可を得るプロセスに遅れが出るようなことはないと考えています。(この設例では、IAS38号(改訂)57項に規定されているその他すべての条件が満たされていると仮定しています。)
(解説)
資産計上を開始すべきタイミングについては、前述のとおり、明確な基準はなく、十分な留意が必要ですが、経営陣が自ら、各開発プロジェクトの事実と状況により判断すべきであると考えます。当設例の場合にもA2-1の場合と同様、IAS38号(改訂)57項の(a)の要件について、技術上の実現可能性が確立された時点において、(他の要件を満たされていると仮定しているため)資産計上の開始が可能になると考えられます。
他の業界と同様に、研究開発費の資産計上のタイミングについては、十分な検討が必要である一方で、製薬業の場合、『規制当局の認可』や『規制当局への認可申請』というような、ある種外観的にも技術上の実現可能性の確立について明確なベンチマークが存在する業界でもあります。特に『規制当局の認可』というタイミングは、無形資産計上のタイミングを検討するうえでの重要なベンチマークとなります。経営者は、このようなベンチマークを利用しつつ、前述の資産計上の要件に留意した上で、開発費の無形資産計上開始のタイミングを適切に判断する必要があると考えます。
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