1. Home
  2. ナレッジ
  3. 業種別ナレッジ
  4. IFRSなんか怖くない~Q&Aでわかる原則主義-業種別傾向と対策
  5. 第4回 製薬業
  6. 収益認識に関する論点

第4回 製薬業
収益認識に関する論点

Q1-1:
医薬品卸業者との代金回収方法を、落差回収としている場合、医薬品卸業者への製品の引渡し時に収益認識をすることは可能でしょうか?

(設例)
当社は、医薬品卸業者を通じて、医療機関等へ医薬品の販売を行っています。製品販売の代金回収方法として、医薬品卸業者が医療機関等へ販売した部分に対してのみ代金回収請求を行っている場合(いわゆる落差回収、または消化回収)、医薬品卸業者への製品の受け渡し時に収益を認識することは認められるでしょうか?

A1-1:
販売代金の請求が確定するまで、収益を認識することはできない可能性が高いと考えます。

(解説)
これまでのQ&Aでも取り上げていたとおり、日本では、収益に関する包括的な会計基準は存在しません。IAS18号では、「物品の販売」について、収益の認識要件を規定しております。IAS18号14項によりますと、『物品の販売からの収益は、次の条件すべてが満たされたときに認識しなければならない』、とされており、その要件が規定されております。

  • (a)物品の所有に伴う重要なリスクおよび経済的価値が買手に移転したこと。
  • (b)販売された物品に対して、所有と通常結び付けられる程度の継続的な管理上の関与も実質的な支配も企業が保持していないこと。
  • (c)収益の額を、信頼性をもって測定できること。
  • (d)その取引に関連する経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと。
  • (e)その取引に関連して発生したまたは発生する原価を、信頼性をもって測定できること。

日本の製薬業特有の取引として、設例のように、落差回収(または消化回収)という、卸業者が医療機関等へ販売するまで、販売代金の請求を行わない取引が存在します。IFRSを適用した場合、このような取引内容では、製品を卸業者に対して委託していると推定される可能性がある、もしくは、製品を引き渡しただけでは事後的に返品のリスクが存在するため、代金回収の確実性が担保されていないと推定される可能性があるため、医薬品卸業者が医療機関へ販売するまでは、上記(a)および(d)を満たさないと見做される可能性があります。実質的な取引内容や契約内容によって慎重に判断する必要がありますが、卸業者が医療機関等へ販売後、代金回収請求を行った時点、もしくは卸業者から医療機関等への販売データを入手し、当社の回収額が確定した時点まで、収益を認識できない可能性が高いと考えます。

Q1-2:
提携契約による受領額をどのように会計処理すべきでしょうか?

(設例)
当社はA社と提携契約を締結しており、自らが創薬し、現在開発中である抗感染症薬(市販薬)に関して払戻不要の一時金を受け取っています。当社は当該契約に従い、さらに開発を進めるにあたり、成功した際に払戻不要のマイルストーン・ペイメントをA社から受け取ることができます。A社はこれらの支払の対価として、当該製品の独占販売権を取得し、将来における売上の実績に対して、一定のロイヤルティを当社に支払うことになります。製品の販売にかかわる費用はA社が負担します。
IAS18号に照らした場合、当社はどのように収益を計上すべきでしょうか?

A1-2:
当社が受領した一時金は予想開発期間にわたり、繰り延べて認識する必要があります。また、開発成功時に受領するマイルストーン・ペイメントについては、マイルストーンの達成時に収益として認識すべきです。さらに、市販薬にかかわるロイヤルティについては、A社が製品の上市後販売する際に、ロイヤルティ収入として認識すべきです。

(解説)
上述のように、日本での収益認識にかかわる会計基準が存在しないことから、この設例のような、一時金の受領部分、成功報酬的な受領部分、販売にかかるロイヤルティのそれぞれについて、必ずしも会計処理が統一されているわけではない可能性があります。
IAS18号では、『役務の提供に関する取引の成果を、信頼性をもって見積もることができる場合に、その取引に関する収益を認識しなければならない。』とされており、IAS18号20項において、信頼性をもって見積もることができる要件を下記の条件をすべて満たす場合、と例示しております。

  • ① 収益の額を、信頼性をもって測定できること。
  • ② その取引に関する経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと。
  • ③ その取引の進捗度を、報告期間の末日において信頼性をもって測定できること。
  • ④ その取引について発生した原価および取引完了に要する原価を、信頼性をもって測定できること。

今回の設例の場合、提携契約による受領額を収益として認識するか否かについては、受領額に関連する役務が既に提供されているかどうかに影響されます。当社が受領した一時金は契約締結日と支払日との間に発生した、実質的な収益プロセスがないため、取引の完了、すなわち、開発終了までの間に提供する役務に対応する収益となります。また、マイルストーンが定められている場合、たとえば今回の設例では、マイルストーンである『開発の成功』の完了時に収益として認識すべきです。さらに、ロイヤルティについては、市販薬の販売の場合、収益を信頼性をもって見積もるための十分な情報を得られる場合が多いと考えられるため、A社の販売時に、その販売実績の情報を入手することにより、ロイヤルティ収入を認識することになります。
ただし、設例のような契約では、契約上のそれぞれの支払いがすべて公正価値に相当するものであるかを検討する必要があります。仮に、当社が多額のマイルストーン(成功報酬)と、少額のロイヤルティを受領する場合、マイルストーン受領額の一部がロイヤルティ収入の一部に該当し、当該マイルストーンの一部を繰延なければならない可能性があります。

では、A社側の会計処理についてはどのように考えればいいでしょうか?

Q1-3:
提携契約による支払額をどのように会計処理すべきでしょうか?

A1-3:
A社は進行中の開発のために単独で取得した無形資産として、前払金およびその後のマイルストーンの金額を資産計上すべきです。また、開発完了後のロイヤルティの支払は、薬剤の収益認識時に売上原価として認識しなければなりません。

(解説)
IAS38号(改訂)25項では、経済的便益の発生可能性について記載されております。企業が単独で無形資産を取得する際に支払う対価には、通常、当該資産により具現化される将来の経済的便益が企業に流入するとの期待が反映されていると考えられるため、当該無形資産に起因する経済的便益流入の可能性の認識要件は常に満たされているとみなされます。そのため、今回の設例におけるA社の提携契約による支出額は、進行中の開発のために単独で取得した無形資産として計上されることになります。その後、当該無形資産については、減損の兆候の有無とは関係なく、当該資産が使用可能になるまで、年に一度、減損の有無についてテストしなければなりません。また、当社と同様に、提携契約によるそれぞれの支払がすべて公正価値に基づくものであるかどうかを検討する必要があります。仮に、多額のマイルストーンが、少額のロイヤルティの一部に該当する場合は、当該マイルストーンのうち、ロイヤルティに該当する部分については、ロイヤルティと同様の会計処理をしなければならないことになります。

ページトップへ