無形資産について、最も対応に時間を要し、影響の大きいものは、自社で行う開発費の資産計上の検討です。現在の日本の会計基準では、一部のソフトウェア開発費、企業結合により取得した仕掛研究開発費を除き、費用処理されますが、IFRSでは、一定の要件を満たした場合、資産に計上することが必要となります。自動車業界は、欧州の事例をみても、資産計上対象となる開発費の割合が高い業界であるため、十分な検討が必要です。
まず、自動車業界の特徴として、開発の進捗管理・費用管理はモデル単位で実施されていること、および大幅なモデルチェンジやマイナーチェンジといった開発内容のレベルが様々である点があります。そのすべての開発について、資産計上の可否を検討する必要があるかが、実務上考慮すべき事項です。
また、2番目の特徴としては、車両メーカーと部品メーカーが共同で開発を進める例が多いことがあげられます。車両メーカーが部品メーカーに対し開発委託費用を払っているケースも多くあります。
さらに、3番目の特徴として、市場のニーズに合った自動車を開発するため、海外子会社で開発を行うケースも多く、開発費の資産化の検討について子会社を含めて検討する必要があるという点です。
これら自動車業界の特徴を踏まえ、開発費の資産計上についての実務上の留意事項について取り上げます。
(設例)
自動車業界における研究開発について、基本研究から既存モデルに実施するマイナーチェンジを含めるとさまざまであり、まずは対象となる研究開発を抜き出す必要があります。また、製品群、取引先ごとに事業部制を採用しているケースも多くあります。そこで、検討の対象の絞込みの第一歩として、研究開発部門ごとに対象となる研究開発の有無について検討します。
(解説)
現在の会計処理では、「研究開発費」という科目名称を使用しており、費用の集計も研究段階と開発段階に分けて管理している会社はあまり多くないと考えられます。まずは無形資産に関する会計基準IAS38号における研究と開発の定義について、確認しましょう。
研究とは、新規の科学的又は技術的な知識及び理解を得る目的で実施される基礎的及び計画的調査であり、開発とは、商業ベースの生産又は使用の開始前における、新規の又は大幅に改良された材料、装置、製品、工程、システム又はサービスによる生産のための計画又は設計の、研究成果又は他の知識の応用と定義付けられています。IAS38号では、開発局面におけるコストが、無形資産計上を検討する対象としています。

では、この事例の会社の場合、検討対象となるのはどこの部門で発生するコストでしょうか。本社機能の研究開発部門で実施する活動は、製品化前の基礎研究に該当する場合が多く、この事例のように研究局面における活動であると判断されることもあると考えられます。一方事業部で実施されるのは主に開発に関する活動であり、その開発費が以下の6つの要件を満たしている場合、資産計上の対象となります。会社により差はあると思いますが、自動車業界に限れば事業内容が類似しているため、多くの会社で同様の整理ができると考えられます。
では、事業部における開発費用が対象となると整理した場合、次に検討対象開発プロジェクトをどのように選定すればいいでしょうか。
(設例)
事業部内で発生するコストはプロジェクト別で管理されているような会社では、そのプロジェクトは、規模に係わらず、大幅なモデルチェンジだけでなく、小規模の変更についても、開発コストの管理のため、通常、すべて一件ごとにプロジェクト番号を付して管理しています。どのような選定基準により、資産化検討の対象を絞り込むことができるでしょうか?
(解説)
Step 1 プロジェクトを以下の4つに分類します。

この場合、多くの企業でLevel1及びLevel 2のみが資産化の対象となり、Level3あるは4は、IAS38号が規定する開発の定義である新規のあるいは大幅に改良された材料、装置、製品など生産のための計画又は設計の研究成果又は他の知識の応用という定義に合致しないと考えられます。
Step2 Level 1及びLevel2のプロジェクトについて、開発部門における工程を、例えば製品全体のデザインの検討、製品化の最終検討、開発審査会による最終判断、生産開始の準備など各段階に分類します。ここでは、細かい違いに着目しないで、2つから3つの段階に分類することを目標とします。
Step3 どの工程において、6つの要件を満たすかを検討する。 IAS38号に示されている開発費の資産化の6要件のうち、以下の3つが実務上要件を満たすことが特に困難である場合が多いと考えられます。
要件の検討にあたっては、開発審査会など重要な会議体に着目して整理することが有用となります。また、重要性の基準値を決定し、資産化検討の対象外とする重要性の基準値以上の開発プロジェクトを識別することも対応の一つであると考えられます。
では最後に、取引先からの委託により開発を行う場合、また本社以外、例えば海外の子会社で開発を行う場合など、開発の実施者の違いに着目して整理をしましょう。
(設例)
自社で実施する開発の中には、他社から委託を受けて実施するケース、自社の開発を一部外注する場合、子会社の開発部門で実施する場合など、開発費といっても様々な形態があります。 この場合、資産化の検討の対象となる開発費の範囲はどのように考えればいいでしょうか?
(回答)
顧客から製品の開発業務の委託を受け、その対価を顧客から受ける場合があります。この場合開発の成果は顧客が所有することが、契約書の中で明記されているケースがほとんどです。したがって、委託を受けた開発業務について発生したコストは、受託開発売上に関する売上原価となります。
また、第三者に開発の一部を委託する場合もあります。この場合は、開発の成果に関する権利は当社が保有することが契約書上も明記されていることがほとんどです。当社で実施した開発に要したコストと同様に、資産化が検討される対象金額となります。
開発の一部を子会社の開発部門で実施することも、よくあります。多くのケースで、開発に要したコスト(開発者の工数など)は、本社に請求され、開発活動の成果についての権利は全て本社が保有するケースが多くみられます。この場合、開発に要したコストについては、子会社で実施分も含め親会社でプロジェクトごとに集計し、資産化の検討を行います。
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