本連載は,主にIASB及びFASB月次合同会議等での討議内容に基づき,最新のIFRSをめぐる動向を伝えることを目的としています。今回は,資本の特徴を有する金融商品のプロジェクトについて解説します。
IASBは,2008年2月に討議資料「資本の特徴を有する金融商品」(以下「討議資料」という)を公表し,負債と資本をどのように区分するかについて再検討してきました。この資本の特徴を有する金融商品のプロジェクトは,米国財務会計基準審議会(FASB)とのコンバージェンスプロジェクトのMoU項目であり,共同で検討が進められてきたもので,金融商品の発行企業において発行した金融商品を負債に分類するのか資本に分類するのかを扱っています。このプロジェクトは,現行のIAS32号「金融商品:表示」の負債と資本の分類方法を簡素にするとともに米国基準とのコンバージェンスを目的としていました。
討議資料では,他の金融商品から生ずる請求権に対し最劣後するものを基本的所有金融商品としました。また,決済条項を持たず清算の際に発行者の純資産に対する権利の一部を保有者に与えるものをその他無期限金融商品,そして無期限金融商品ではないが契約条件によりその価値が基本的所有金融商品の公正価値と同じ方向に変動する金融商品を間接所有金融商品としていました。
このように,討議資料では,まず基本的金融商品を基礎にそれに類似する2つの金融商品を示していました。その上で,基本的所有アプローチ,所有決済アプローチ及び期待結果再評価アプローチの3つのアプローチを示し,図表1に示したように上記の3つのタイプの金融商品の資本と負債への分類を示していました。
| 基本的所有 金融商品 |
その他無期限 金融商品 |
間接所有 金融商品 |
|
|---|---|---|---|
| 基本的所有 アプローチ |
資本 | 負債 | 負債 |
| 所有決済 アプローチ |
資本 | 資本 | 資本 |
| 期待結果再評価 アプローチ |
資本 | 負債 | 資本 |
この3つのアプローチは,基本的所有金融商品を資本としていますが,それ以外の金融商品についての資本,負債への分類が異なっており,討議資料はこの3つのアプローチのどれをとるかについてコメントを求めていました。
しかし,昨年12月のIASB及びFASB月次合同会議において,上記の討議資料が示したアプローチによる検討が断念されました。これは,討議資料へ寄せられたコメントの多くが,上記の3つのアプローチのどれをも支持しなかったことによります。コメントの多くは,現行のIAS第32号は基本的に欠点はないとし,むしろそれを出発点として検討を進めることを支持していました。また,特に基本的所有アプローチは,資本に分類される金融商品の範囲を極端に狭くするため批判的意見が多くありました。
このため,このプロジェクトは現行のIAS第32号に立ち返り仕切り直しとなりました。現在検討されている案は,負債を現金またはその他の資産を支払う債務あるいは変動数量の自社株式を発行する債務とし,資本を残余請求権あるいは特定価格で特定数量の株式を発行する債務とするアプローチをとっており,現行のIAS第32号と類似しています。また,金融商品の構成要素を負債,資本に分離して会計処理する現行のアプローチも,引き続き適用される方向で検討が進められています。
普通株式などの基本的資本性金融商品は,図表2に示した分類で検討が進められています。
| 金融商品 | 現行IFRS | 検討中の案 |
|---|---|---|
| 普通株式 | 資本 | 資本 |
| 配当支払いが強制されない永久優先株式 | 資本 | 資本 |
| 配当支払いが強制される永久優先株式 | 負債(注) | 負債(注) |
| 有期限の事業体へのジェネラルパートナー持分(清算時のみ償還) | 条件が満たされない限り資本 | 資本 |
(注)資本構成要素はほぼ無価値となる。
企業が償還を決定しないかぎり償還されない永久金融商品,清算を強制されないかぎり償還されない永久金融商品,または存続期間が限定された事業体が発行した永久金融商品は資本に分類する方向で検討が進められています。
このように検討中の案は,現行のIFRSを大幅に変更するものではありませんが,清算時にのみ償還される有期限の事業体の発行する金融商品は資本に分類されるため,資本への分類が緩和されています。
償還可能金融商品は,図表3に示したように分類されます。当該事業体との取引を行うために保有しなければならず,取引中止時に償還される金融商品などは資本に分類されますが,強制償還権付金融商品は負債に分類されます。
| 金融商品 | 現行IFRS | 検討中の案 |
|---|---|---|
| 強制償還権付金融商品 | 負債 | 負債 |
| 公正価値で随時保有者が償還可能な株式 | 条件を満たさないかぎり負債 | 売建プットは負債,株式は資本にそれぞれ分類 |
| 保有者が活動に参加しており脱退時に償還される共同組合持分 | 条件を満たさないかぎり負債 | 資本 |
| 脱退可能であるが,既存のパートナー等が支配を継続できるように保有者等に償還を要求しているリミテッドパートナー持分 | 条件を満たさないかぎり負債 | 資本 |
現行のIFRSとの比較では,プッタブル金融商品を負債と資本の構成要素に分類するよう変更されており,また共同組合持分など特定の償還可能な持分をより多く資本へ分類しているといえます。
上記に加え,自社株式購入のオプション・先物,新株予約権などの自社株式を使用して決済される金融商品,転換債などの転換金融商品などの負債,資本への分類がそれぞれ個別に検討されています。
当初測定においては,負債部分は公正価値,資本部分は取引価格で測定する方向で検討が進められています。
事後測定においては,償還されない資本については再測定を行わないことで検討されています。一方共同組合持分のように償還される可能性のある資本は,当該時点で償還されたとみなして償還金額で再測定され,差額は剰余金に振替えることで検討されています。負債に分類された金融商品は一般の金融商品会計によります。
また,転換債については,転換によって発行された株式は発行時の公正価値で計上されます。転換債が負債と資本に分離処理されていた場合には,負債の公正価値と負債の帳簿価額との差額が損益に計上され,それ以外は資本で計上されます。転換債全体が負債に分類されている場合は,株式の公正価値と負債の帳簿価額の差額を損益に計上することで検討されています。
このように資本の特徴を有する金融商品については,現行のIAS第32号を修正する方向で対応することで検討が進められています。IASBスタッフは公開草案の起草を開始しており,6月には公開草案を公表することが仮決定されていますので,公開草案に向けてのIASBでの議論が注目されます。
こちらは、『週刊経営財務』2968号(2010年5月31日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。
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