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第2回 収益認識(2009年12月~10年2月の動向)

1.ディスカッション・ペーパー後の動き

IFRSにおける収益認識に関しては,2008年12月にディスカッション・ペーパー(DP)が公表された後,寄せられたコメントを受け,月次のIASB・FASB合同会議等において様々な仮決定がなされてきました。本連載は,主にIASB・FASB合同会議等での討議内容に基づき最新のIFRSをめぐる動向を伝えることを目的としています。今回は,収益認識の第1回目として2009年12月から2010年2月までの収益認識プロジェクトの動向について解説します。

2009年12月の合同会議での仮決定事項は,製品保証債務,返品権がある場合の物品販売における収益認識,及び不確実な対価の見積りについてでした。以下に,各項目の要点を説明します。

2.製品保証債務

製品保証債務をその内容に応じて以下の2通りに分けて考えることが仮決定されました。

(1)製品受渡し時に既に欠陥があったが明らかになっていなかった場合(原文ではlatent defectという言葉を使用している)は,別個の履行義務があるとはみなさない。そのような場合に欠陥製品を交換する必要があれば,欠陥製品受渡しによる収益は認識しない。もし,欠陥製品の交換ではなく修理をする必要がある場合は,交換部品相当の収益は認識しない。
(2)製品受渡し時には欠陥がなかった場合は,製品保証という別個の履行義務があると考え取引価格の一部を製品保証に配分する。

また,法令等により,製品が損害や損失を与える場合に企業が補償する義務がある場合は,別個の履行義務があるとはみなさず,IAS第37号「引当金,偶発負債及び偶発資産」により別途引当金を計上する。

(1)の場合は,当初の履行義務である「顧客が指定した製品を受け渡す」という義務が未だ充足されていないと判断される場合であり,(2)の場合は,当初の履行義務の一部が未充足であるという考え方によるものです。DPでは,全ての製品保証が潜在的な欠陥製品を将来において修理又は交換しなければならないという共通の義務を負っている場合は,別個の履行義務があるとみなしていましたが,DPでの提案に対する多数の反対コメントを受け,上記(1)及び(2)の場合に分けて追加履行義務の有無を判断することになったということです。また,いわゆる製造物責任法(PL法)による損害賠償責任については,IAS第37号「引当金」により負債を認識・測定することが仮決定されました。そのため,DP公表当初に懸念されていた「全ての製品保証」について同一に履行義務があるとして会計処理をするのではないという点に留意が必要です。

3.返品権がある場合の物品販売

次に,無条件の返品権が顧客側にある場合の収益認識について検討した結果,以下(1)から(4)の仮決定がされました。ここでの返品権とは,製品に瑕疵がある場合に顧客が返品する場合ではなく,無条件(Unconditional)の返品についての議論であることに留意が必要です。

(1)顧客からの返品が予想される物品販売による収益は認識してはいけない。その場合は,顧客に対する返金(refund)債務を認識する。これは,発生可能性により加重平均で見積る。
(2)返金債務の見積り変動額は,返品に配分された履行義務の修正として事後的に認識しなければならない。
(3)返金債務の決済時に,当初販売した物品の原価(すなわち在庫の簿価)相当額の返品を顧客から受け取る権利としての資産(及び関連する売上原価の修正)として認識しなければならない。
(4)顧客に約束した返品サービスは,これを返金義務に追加して別個の履行義務として会計処理をしてはならない。

DPでは当初,返品について2つのアプローチが提示されていました。返品は履行義務のひとつであるというアプローチ,および返品は販売行為の失敗(fail)であるとみなすアプローチです。DPに対するコメントもそれぞれのアプローチについて意見が別れ,議論の結果,2つのアプローチを統合する形で「返金義務」という考え方が提案され仮決定されました。この考えは,次に説明する「不確実な対価の見積り」と表裏一体となっています。

4.不確実な対価の見積り

12月以前の合同会議においては,収益認識上の取引価格の測定について様々な議論があり,顧客が不確実な対価を取引する場合の取り扱いについて以下の仮決定がなされていました。

(1)取引の当初認識時において,取引価格は受け取る対価の見積り額(期待値アプローチ,発生可能性の確率の加重平均により測定)とする。
(2)事後的な測定において,取引価格の変動を全ての履行義務に配分し,その変動により履行義務が満たされた場合,当該期間の収益として認識する。
(3)信頼性をもって対価を見積れない場合に限り,収益認識ができないものとみなす。

その中で,「信頼性をもって」対価を見積ることができる(又はできない)とはどのような場合であるかを明確にするよう12月の合同会議で検討した結果,以下の仮決定がなされました。

(1)契約の結果(すなわち対価の金額)を識別することができ,その発生可能性を合理的に見積ることができる場合にのみ,取引価格に不確実な対価の見積りを含める。
(2)契約の結果が識別でき,かつ,その発生可能性を合理的に見積ることができる場合とは,以下の2つを同時に満たす場合に限る。

(a) 同一の,または似たタイプの契約の経験があり,かつ(b) その状況が同様の契約と著しく異なることが想定されない場合

今後,公開草案(ED)では,取引価格に含めることができる「見積りによる対価」に関するいくつかの考慮事項(factors)を提供するべきである,と12月のIASB会議の議事録に記載されています。

これらの仮決定の背景には,対価が不確実な場合の収益認識がDPにおいて想定されていなかったことがあります。前述の不確実な対価に関する仮決定が,DPに対するコメント締め切り前に公表された際には当該仮決定に賛同するコメントも多く寄せられたということです。これは,実務上,見積りにより対価を計上している事例(特に工事契約)が多いことを物語っています。他方,見積りによる計上を容認することは,収益認識の客観性についての懸念となるというコメントも提出されましたが,12月の合同会議では前述の通り,見積り対価による収益認識が条件付で認められたことになります。引き続き,EDでは,見積り対価に関する考慮事項が提示される予定となっていますので,今後の動向を注視する必要があります。

5.開示

2010年1月に開催されたIASB及びFASBの合同会議では,現在提案されている収益認識モデルの下での開示については,IFRS第7号「金融商品:開示」と同水準の高度なレベルの開示目的を具体的に示すことを仮決定しました。また,企業は,以下の情報を開示しなければならないことが仮決定されました。

a.顧客との契約の内容,及び関連する会計方針
b.顧客との契約の会計処理における主要な判断基準
c.正味契約ポジションの期首から期末までの調整表
d.履行義務残高の総額とそれらが決済されると見込まれる時期
e.不利な契約があれば,不利になった理由,その金額及びその度合いを含む情報

上記bの「主要な判断基準」については,2月16日のIASB・FASB合同会議資料の1つである「提案モデルの要約(Background paper: summary of proposed model)」においてより具体的に何を開示すべきかが明記されています。例えば,顧客との契約における収益認識のタイミングと金額に影響を及ぼす判断及び判断の変更は開示することとなっています。

また,上記cに含まれる情報として,前期末に未履行であった履行義務のうち,当期に履行されたため収益が認識された金額も開示が必要とされています。開示については,今後も引き続き検討される見通しです。

6.適用範囲

2010年2月に開催されたIASB及びFASBの合同会議では,収益認識に関する新基準の適用範囲について討議され,以下のIFRS基準に関連する契約は適用範囲から除外されることが仮決定されました。

(a) IAS第17号「リース」
(b) IFRS第4号「保険契約」
(c) IFRS第9号「金融商品」
(d) IFRS第4号,IAS第39号「保証」(但し製品保証を除く)

今後の会議では,あるひとつの契約が,新しい収益認識基準の適用範囲内の契約における履行義務と当該新基準の適用範囲外だが他のIFRS基準の適用を受ける履行義務の双方を同時に含む場合に,どのように会計処理をすべきかについてさらに検討する予定となっています。

収益認識プロジェクトは当初,業種別等ではなく単一の収益認識基準の設定を行う予定でしたが,DPに対するコメントにおいても,特に金融商品に関連した収益認識を含めた単一の基準設定は困難であるという意見が多かったため,今般の適用除外の明確化に至ったものと思われます。したがって,IAS第18号「収益」の設例において,金融機関の手数料収益についての事例が記載されていますが,新しい収益認識基準には,例えばその中のローン・オリジネーション・フィー等の事例は含まれない予定です。

7.経過措置

提案されている新しい収益認識の基準は,IAS第8号「会計方針,会計上の見積りの変更及び誤謬」に従い遡及適用することが仮決定されました。

FASBは,新基準の早期適用を禁止することを仮決定しましたが,一方,IASBは,IFRSの初度適用に限り早期適用を認めることを仮決定しています。IASBは,既にIFRSを適用している企業の早期適用を認めるか又は認めないかについて,将来の会議で決定することにしています。多くの日本企業は,初度適用になると思われますが,IFRSを継続適用している企業が新しい収益認識基準の早期適用を検討している場合には注意が必要です。

次回,2010年3月に開催されるIASB及びFASBの合同会議においては,引き続き開示,適用範囲,および契約コストについて討議する予定です。なお,この文章中の仮決定は全て IASBのホームページ 上等で一般に公表された情報に基づくものですが,今後のIASB及びFASBの審議の過程で異なる結論となる可能性がある点にご留意願います。

こちらは、『週刊経営財務』2958号(2010年3月15日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。

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