2008年の金融危機以後,加速化して作業が進められている金融商品プロジェクトの現状について解説します。
2008年後半における金融危機の深刻化により生じた金融商品に係る財務報告への不信感の高まりから,G20首脳会議は,現行の金融商品会計基準を改善し簡素化することをIASBに勧告しました。これを受けてIASBは,現在,IAS39号「金融商品:認識及び測定」の改訂作業を行っています。金融商品の会計基準の改善のプロジェクトには,つぎの4つの項目が含まれています。1つ目は,金融商品の測定についてであり,分類と測定,減損,ヘッジ会計に3つのフェーズに分けて検討されています。2つ目は,金融商品の流動化についてであり,金融商品の認識の中止の改善の検討が進められています。3つ目としては,公正価値測定についてのガイダンスが検討されています。最後に4つ目としては,金融商品の発行企業における負債と資本の区分について検討されています。この4つの項目は現在並行して検討が進められていますが,今回は,比較的短期的に公開草案の公表が見込まれる,金融商品の測定の中の「金融負債の測定」及び「ヘッジ会計」について解説します。
2009年11月に公表されたIFRS9号「金融商品」では,金融資産の分類と測定が扱われていましたが,金融商品の測定については,金融負債の測定,ヘッジ会計,減損についての検討が継続されています。このため,企業は2009年末の財務諸表からIFRS9号を適用することができますが,現在検討が進められている部分については,IFRS9号には規定がないため,現行のIAS39号「金融商品:認識及び測定」が適用されるかたちになっています。
とりわけ金融負債の測定については,IFRS9号で取り扱うことができず再度公開草案を公表することになっています。既に公表されたIFRS9号は,金融資産について償却原価及び公正価値の2つの測定分類を設けています。償却原価の測定分類とするためには,金融資産が契約上のキャッシュ・フローを回収することを目的とするビジネス・モデルにより保有されており,かつ金融資産の契約上の条件が,元本の支払及び残高の利息であるキャッシュ・フローを特定の日に生じさせていることが条件とされており,それ以外の金融資産は公正価値測定に分類されます。なお,2009年7月に公表されたIFRS9号の公開草案では,金融負債についても扱われており,同様にこの償却原価,公正価値の2分類に分けて測定することが提案されていました。
2009年12月のIASBの会議では,IFRS9号の測定分類を前提として,金融負債を公正価値測定に分類した場合に,測定に信用リスクをどのように取り扱うか議論されました。現在検討されている案は,以下のものです。
(1)貸借対照表上は公正価値で測定し,自己の信用リスクはその他の包括利益で認識し,その他の公正価値変動は損益で認識する方法
(2)自己の信用リスクの変動は無視した公正価値で測定する方法
(3)償却原価測定部分と公正価値測定部分に分離する方法
(4)償却原価で測定し,貸借対照表において公正価値を表示する方法
本年1月にIASB,FASBの合同会議が開催されましたが,FASBは金融資産と金融負債の測定をシンメトリーに行い,金融資産の測定と同様に金融負債にも信用リスクを考慮する仮決定をしたことを報告しており,信用リスクを公正価値測定に含めるべきであると主張しています。これに対し,IASBスタッフからは,2009年6月に討議資料「負債の測定における信用リスク」などに対し関係者からシンメトリーなアプローチは必要ではなく,信用リスクを含めて測定すると有用な情報を提供できないというフィードバックがあったことが報告されています。非常に重要な論点で引き続き検討される予定ですが,FASBは3月に公開草案を公表する予定であり,IASBもこれに合わせて公開草案を公表することが予定されていますので,今後の議論の動向が注目されます。
つぎに,ヘッジ会計ですが,IASBが2008年3月に公表した討議資料「金融商品に関する報告における複雑性の削減」において,ヘッジ会計の規定の廃止,ヘッジ会計の規定の維持・簡素化などが検討されていました。FASBも同6月に公開草案「ヘッジ活動の会計―FASB基準書第133号の改訂」を公表しています。
2009年12月におけるIASBとFASBの合同会議では,利用者,作成者側からのコメントが検討されています。具体的なコメントとして,まず,IASBの討議資料に対して,利用者からは,企業のリスクを把握するための情報とともに企業のリスク管理戦略を明確に理解するための情報を重視しており,また企業がデリバティブをどのように利用しているかを重視しておりトレーディング,ヘッジ及びその他リスク管理のそれぞれの目的毎に分類する必要があるというコメントがありました。また,作成者側からは,航空機産業におけるジェット燃料などの非金融商品,純額ポジション等に関するヘッジ関係の規定や,ヘッジ適格とするための有効性テストなどの現行の規定がルールベースになっているため,経済的なヘッジについてヘッジ会計を反映できないというコメントがありました。
一方,FASBの公開草案に対して,一部の利用者からはキャッシュ・フローヘッジについて否定的なコメントがありました。また作成者,監査人からは,文書化の規定,ヘッジ指定等,ヘッジ対象の識別,有効性の評価など複雑すぎるというコメントがありました。
作成者側からは,共通して現行のヘッジ会計規定の複雑性に対する批判がありますが,これは認識,測定の一般規定に対してルールべースのヘッジ会計モデルが設けられていることに起因しています。このため,いつどのようにヘッジ会計が認識,測定の一般規定をオーバーライドするかを明確にすることにより,ヘッジ会計の目的を確立する必要性が議論されました。
1月のIASB,FASBの合同会議では,今後の公開草案の公表までのスケジュールが議論されました。第1案では,非金融商品のヘッジ会計を含めた包括的な公開草案を5月に公表するもので,第2案は金融商品に関連するものだけを扱った公開草案を3月に公表するものです。議論の結果,第2案の方向で進められことになり,金融商品のヘッジを対象とした公開草案を3月に,非金融商品のヘッジを対象とした公開草案を6月に公表することになっています。
その後,IASB単独の会議が開催され,12月の合同会議の議論を受けヘッジ会計の目的及び適格ヘッジ対象が議論されています。ヘッジ会計の目的を,企業のリスク管理及びその財務報告の関係を明らかにすることとする案と,デリバティブの会計処理とヘッジ対象の会計処理のずれを緩和化すること,及びキャッシュ・フローリスクを緩和化するために使用されているデリバティブヘッジ手段に係る利得,損失の認識時期を管理する案が提示され議論されました。前者は企業のリスク管理に焦点をあてたより一般化された定義であり,後者はヘッジ会計に焦点をあてた狭義の定義となっており,どちらを選択するかによりヘッジ会計の適用範囲にも影響しますが,現段階では結論は出ていません。
次に適格ヘッジ対象が議論されました。現行の基準では,ヘッジの有効性の判断において金利リスク,外貨リスクなどのリスク構成要素を指定することができ,その場合識別される構成要素は個別に識別可能で,測定可能でなければならないとする規定がありますが,これを維持するかどうかなどが議論されました。また,現行基準では認められていない非金融資産についてのリスク構成要素をヘッジ対象にするかどうかなども取り上げらており,今後の重要な論点となっていくと考えられます。
こちらは、『週刊経営財務』2956号(2010年3月1日)にあらた監査法人企業会計研究会として掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、あらた監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載·転用はご遠慮ください。
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